墓標に咲く


いつかの話をしよう。
そう切り出した時、僕の腕に頭を乗せていたルイは予想通り怪訝そうな表情を浮かべた。

「いつか……僕達みんな死んだら」
「縁起でもないことを……なんですかいきなり」
「必ずそういう時は来るだろう? その時、僕らの墓標を立てるのは誰なんだろうね」
「さあ? 担当の上級隊員じゃないんですか」

あっさりと、さして興味もなさそうに。
癖のないきれいな髪を指に絡めながら顔を覗いてみたけれど、ルイの表情は変わらず、言った言葉を訂正しようともしない。

――僕はよくルイに退廃的だと言われるけれど。
だけどその実、ルイだって充分不健全だと思うんだ。躰じゃなく、心が。

ああでも……ルイからその不健全さがなくなってしまうのは嫌だな。
どこか欠けているこの子を、僕は愛しいと思うんだから。

「……穴が開きます」
「いいね、それ。僕の視線で君に風穴が開くなら、それすら愛しいと思う」
「相変わらずですね。やめてください、そういう怖いことを笑って言うのは」
「掛け値なしの本心だよ?」
「だから怖いんです。少佐が言うと本当になりそうなのでやめてください」

風穴なんて無用だと、御免だと。
そう吐き捨てるように呟く唇は赤く、普段より充血しているように見える。

血の色。
見慣れすぎた血の色をそのまま映しているような、赫。

とても似合うな、なんて思うと同時に手が勝手に動いていた。
ルイは漸く落ち着いたばかりだと頭の片隅ではしっかり解っているけれど、ゆっくり上下する喉仏に触れ、愛しさのままに首を絞めていく。

「、――……っ」

さして驚きもせずか細い吐息を漏らすルイを組み敷いて、真上から見下ろしながら、蝕むように力を強めたり弱めたり…滲む苦悶の表情がだんだんと恍惚に変化していく様を、存分に眺めて。

「いつかなんて待たずに、今すぐ殺したいなぁ……」
「……、ぁ……」
「ルイがこれ以上きれいにならないうちに。愛したままの姿で」
「……っ、……――」

焦点がブレ始めた目に、微笑んでいる僕が映り込む。
鏡のようなそれは真実なんて決して映さないけれど、今ルイが見ているものは僕だけなんだと思うと、尚更このまま……なんて。

右手を離し、左手に右手の分も力を入れる。
僕の下で震える身体に、自由になった右手を焦らすみたいにゆっくり這わせ、また硬度を取り戻しているものをぐっと掴む。
途端、目を見開いて、つーっと涙を零した。
開閉させる口からは相変わらずまともな音なんて出てこない。だけど、目だけはしっかり僕を映してる。

緩い刺激を与えながら、堕ちていく様を眺め、赤らんでいく頬や耳や目元を見下ろした。
ブレた目が訴えている事を解りながら、意地の悪い僕はそれに応えることはしない。
それをきっとルイだって解っているだろうに、無言の訴えをやめようとはしない。

「足りない?」

解っていながら微笑みかける。
頷きはせず、声を絞り出そうともせず、ただ黙って自ら腰を揺らしたこの子にまた愛しさが込み上げた。

声を封じたまま、ルイの目を見たまま。
割った両足を高く持ち上げ、ルイからも見えるように挿入していく。
慣らしてもいないそこにはまだ、さっき僕が注いだものがそのまま残っていた。きっとルイにも負担はない筈。

……ほら、だって、届かない声で喘いだ。

湯水のように垂れ流される涙で枕が濡れていく。
揺さぶる度に、奥へ突き立てる度に。
ぐちゃぐちゃと耳障りな水音や肌がぶつかる音が響き、ルイの中が痙攣に近い収縮を繰り返す。

僕に合わせ腰を揺らすこの子を見ていたら、少し意地悪をしてみたくなった。
ルイの一番悦くて・一番苦手な箇所を抉り、いつ達してもおかしくないほど震えているものの尿道に爪を立てる。
大袈裟なくらい全身を硬直させ、瞳孔が開き、気の毒なほど震えながら薄い体液を吐き出して――。

「――……ぅ、……っ!」
「もっとしてあげる」
「ぃ、ぁ……、――!」

まだ少し吐き出しているものを手放して下腹部を押し込み、また中を抉ってみた。
ルイの震えは更に酷くなって、僕に伝わってくる締め付けも痛いほどになって。

「ドライはまだつらい?」

悪戯心すら萎むほど、震えるルイが可哀相に思えてしまう。
絞め続けていた首を解放したのに、あれだけ焦点が合っていない時にもちゃんと僕を映していた目には、もう何も映っていない。

それが酷く淋しかった。

だから、そんな目なんて塞いでしまおう。
何も見えないように。
僕以外も、何も。

数秒前まで殺さない程度に首を絞めていた左手で、濡れた目元を覆い隠す。
こんどは酷く、安心した。
僕を映さないのではなく、何も映さなくなったことに。

震える両手が探るように僕のほうへ伸びてくる。
それもちゃんと見えてる。解ってる。
だけど、見ないふりをして、窓の外へ目を向けた。

厚いカーテンの隙間から微かに見える外の景色の中には、無数のほの白い石碑は見えない。

「……いつか……いつか君がいなくなったその時は、僕が君の墓標を立ててあげる……」

腕に、胸元に、鎖骨に、背中に、
存在を確かめるようにルイの手が僕の上半身を這っていく。

僕の意思も言葉も想いも、すべてを飲み込むみたいに、抱きしめられた。

解放した筈の喉は震えない。
声も音も何もかも、隠した目と同様に届かない。
だけど――。

「一目でルイのだって分かるように……君の石は黒く染めてあげる」

何も聞こえないのに、何かが聴こえた気がした。
熱いくらいの温かい体温が、冷えた僕を溶かす。

――ルイはその実、僕より意地が悪い。
追いつめていたのは僕だった筈なのに、いつだって最後には僕が追いつめられるんだ。

この、火傷してしまいそうな、温かい体温に。


墓標に咲く
“本当は、黒も白も赫も見たくない”


だいぶ前に書いた小話。
確か、相思相愛いちゃらぶしてるアベルイを書こうとしていたはず。結果はご覧のとおりです(笑う所)