イプ中の産物その1

「なあ緋王。お前髪伸ばしてんのか? 鬱陶しくねえのか、それ」

さらりとした布団の中、俺とは真逆の色の髪へ手を伸ばす。
気怠げに此方を見た緋王は、髪を遊ぶ手には何も言わないまま、そっと俺の頬に触れた。

「鬱陶しい。……と、云えば何かが変わるのか」
「は? んなの切ればいいだけの話じゃ……」

続く言葉は、唇へ触れた親指に止められてしまった。
薄く細められた双眸が静かに、どこまでも静かに俺を捉える。影のかかる紅に滲む感情は見えない。何も、見えない。

「何も無かったのだ。何も……誰も」
「……、……」
「触れることなど叶わぬ。触れられることも、また叶わぬ」

上唇を滑る指は温い。普段は氷のように冷えた肌には今、俺の体温が移っている。
それを知り、漸く、気付いた。緋王の言わんとしていること、言わせてしまった己の酷さに。

誰もいなかったんだ。何も無かったんだ。俺の裡に埋没していたこの半身には、何も。
外見など。そんなもの、他者がいてこそ気になるものだ。俺だってきっと……緋王と同じ立場にいたら、きっと気にならない。随分伸びたなと、整えてくれるあいつらがいなければ、きっと。

半身の孤独に気付いてやれるのは、半身である俺しかいなかったのに。

「……、悪い」
「何を謝る」
「いや……、だってよ、お前が封印されてたのは俺のせいだ。お前は独りだったのに、なのに俺は」

紅に映る自分を見ていられず、目を逸らした。唇から頬へ戻った温い掌は顎へと下り、柔くも逃げられない強さで向き合わされる。

逃げるなと言われているみたいだ。己から――自分から。

「憐れみなど要らぬ。不快だ」
「……、悪……」
「ただ……そうだな。この不快すら、汝の齎すものと思えば悪くはない」

不快と断じながらくつくつと笑う。
矛盾する言い分を笑うことなど、つられることなど、俺には到底出来なかった。
けれど、緋王は笑うから。
酷なことを言った俺を、笑うから。謝罪すらも、笑うから。

「……、今度、俺が切ってやる。出来は保障しねえけどな」

再びの拒否を紡ぎかけた生意気な口をこの口で塞いでやった。舌を絡ませても歯列をなぞっても、昨夜のような身を焦がすほどの熱情は感じられない。

触れている。触れられる。――ただひたすらの、確認行為。
互いの頬を似た温度の掌で包み、互いの体温を奪うように溶け合うように脚を絡ませ、舌から肌から互いの存在を互いに植えつけ確認していく。それだけの行為。それだけの、大切な。

息継ぎの合間に、藍丸、と囁く。囁きすらも飲み込むように、緋王、と呼ぶ。

融合ではなく、眠りでもなく。
他者として互いの存在を確かめ合いながら、同じ存在としての互いを愛おしむ。
もう孤独ではないのだと、吐息で伝えながら。



作業イプ中になんとなく思いつきで打ち込んでいたものが出てきましたその1