イプ中の産物その2
汝に触れてみたい――。
流れ込んだ意思の声が未だにこびりついて離れない。
初めて他者として触れたあの日の熱はもう、手放せないほどにこの身に馴染んでしまった。
手放すなど、分断など、ありえない。そう言い切れるほどに。
隣に眠る半身を見つめ、ふっと目を細める。
「……もう絶対、独りになんてさせねえからな」
緋王、とその耳元に囁けば柳眉が微かに寄せられた。瞼を下ろせば、俺のとは別の寝息が頬にかかる。
身を分かつことそのものが緋王にとって負担ということを忘れたわけじゃない。明日にでも一度俺の中へと還さなければ、
符を媒介にした仮初の身体は限界を迎え、そのうちに影響が出てしまうだろう。
「……ごめんな、緋王」
いつもいつも、負担を負うのはお前ばかりだ。
負担も業も呪いも、なにもかも。お前ばかりだ。お前に背負わせてばかりだ。
「ごめんな。……ごめんな」
視界を閉ざしたまま、そこに在るはずの肌に触れた。具現してから数日が経過した肌は初日より随分その体温を落としていて、罪悪感がぐんと増す。
後ろめたさや押し潰されそうな暗い感情のままに、幾度も幾度も謝罪した。幾度も幾度も。眠る緋王へは届かないと知りながら、幾度も。
「……ごめんな」
喉が引き攣っても。
「ごめんな」
声が濡れても。目頭が痛んでも。
「ごめんな。ごめ……」
「五月蝿い」
「……っ!? おま、起き――」
驚いて目を見開けば、鬱陶しげに俺を見ている紅が二つ。ぼやける視界にその紅だけがいやに明瞭に映り込んだ。
「莫迦の一つ覚えのように何度も何度も。我の眠りを妨げるなど……どこまでも傲慢な半身よ」
「……、わり……」
「それでいい」
「……、は?」
滲む紅は未だ鬱陶しげなまま。疑問符を浮かべる俺へ、緋王はまた同じ台詞を繰り返した。
「それでいい。傲慢なくらいが丁度よかろう」
「何言って……」
一際煩わしげに眉を寄せ、あろうことか舌打ちまで飛ばし、ぐっと引き寄せられる。
耳介へ吐息がかかった。身を縛る腕と同じほどに冷え込んだそれは、掠れ、しかし抗えない熱さをもって鼓膜を揺さぶる。
「傲慢で、不遜で。どこまでも愚かで、どこまでも、莫迦でいろ」
反論を許さない声音で、
「愚かに、憐れに、不完全でいろ」
静かに囁き続ける。
「境遇を呪い、此の身の不完全を嘆き、囚われていろ」
到底甘受出来ない命令は、どうしてか、罪悪感に塗れていた鬱々とした心を溶かしていく。
俺より少しばかり低く掠れた声で囁き。耳朶を甘噛みし、符の身に取り込むように腕の拘束を強める。
「汝がこの世に在る限り。その心ごと、我のものだ。――たとえその心の臓が鼓動を止めたとしても」
眠れ。
静かに最後の命を下し、声は止んだ。後に残るは半身の寝息と、拘束。体温の移り始めた肌。
「……、おっかねえな……俺の、半身は……」
窮屈な腕の中で、ひとり、笑う。
考えうる総ての非道を赦された甘く残酷な牢獄の内側で、俺ももう一度目蓋を下ろした。
限界の近さを訴える冷えた肌へ体温を分けるため、仮初の身体へ腕を回す。
永きに渡った封印。俺の業。呪い。俺に降りかかるありとあらゆる災厄。その全てを理不尽に受け止め続けてきた半身を抱きしめる。
痛みすらも真実と、実存の証と言い切った半身の腕の中で眠りへと落ちていく。
どうか心の臓が止まるその時まで、こうしていられたらと。
死すらも共有できたらと、願いながら。
作業イプ中にry たぶんなんかこうベタなのが書きたくなっただけかと。