穢れた愛に口づける
――嗚呼、汚い。
「兄さん……アベル、兄さん……っ」
「泣かないでヨハン。ほら…僕が泣いてるみたいだ」
僕の頬を伝うヨハンから排出された涙という名の液体。
真上からはらはら落ちてくるその一滴すら汚くて、どうしようもなく綺麗で愛しい。
ぐしゃぐしゃに歪んでいるヨハンの顔も、僕を締め付けている体内も、すべてが汚物みたいで愛しすぎる。
「、兄さん……兄、さん」
「ふふ…何? ヨハン。そんなに呼ばなくても僕はここにいるよ」
「あんな奴に、僕の…僕の、兄さんが……! っく」
「大丈夫……彼はもう眠っただろ?」
駄々をこね幼子のように厭々する弟の腰に触れ揺さぶってやる。
それだけで泣きながら僕を呼び自ら動き出した。
この子は潔癖なのかなって何となく思う。だって彼は僕を愛したっていうだけなのに。それすら赦せないなんて……。
歪んでる。醜い。汚い。愛しい。
僕の代わりに腫らした傷だらけの右手を取り、まだ芳しい血臭の残る関節に口づけた。
「兄、さん……、汚れ……」
「ねえヨハン。僕が好き……?」
「……っ」
開閉させる口からは音が出てこない。
声にならない声で何度も紡がれる“あいしてる”と“ごめんなさい”を飲み下して、洪水のように降ってくる涙を指先で拭う。
濡れた指すら汚物に変わった気がして、自然と穏やかになった表情が、鏡を見なくてもヨハンの泣き濡れた瞳に映って解った。
「ヨハン。泣かないで……」
透明な筈の涙が泥のように見えるのはどうしてかな。
純粋すぎて歪んでしまったこの子が醜くて愛しいのはどうしてかな。
粛清する立場の僕らが一番隊規を侵してる。
それでも、僕は。
「兄さん――……っ」
壊れたように僕を呼ぶしかしないヨハンを引き寄せて、醜悪な愛を垂れ流す煩い唇を塞いだ。
穢れた愛に口づける
“そして、キミを蝕む”
だいぶ前に別館の日記かなにかに書いた小話。
ボーナム粛清後くらいのイメージでしたが今見返すとなんのこっちゃ。